僕とバイクとユーレイの君

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 今日、向かうのは、奈良県宇陀郡曽爾村の曽爾(そに)高原だ。今の時期は、高原一面にススキが生えて美しい。  大阪から1時間ほど走り、奈良市に入ると、奈良公園が見えてきた。野生の鹿が、公園の中や歩道などをウロウロしている。鹿せんべいを売る売店の前で、たむろしている鹿たちもいる。  感染症が流行する前は、修学旅行生や外国人観光客で賑わっていたこの辺りも、一時期は人が減っていたと聞いていたが、観光客は徐々に戻りつつあるようだ。  奈良公園を抜けると、次第に建物が減ってきて、田んぼが目立つようになってくる。まだ稲の刈り取りには早いのか、金色の稲穂が綺麗だった。あぜ道にはところどころにヒガンバナが咲いている。 (ああ、やっぱりツーリングは楽しいなぁ。バイクは僕の癒しだよね)  ここ数ヶ月の自粛生活で溜まっていたストレスが消えていくようだ。  山間に入ると、体感温度が下がった。僕はしっかりジャケットを着ているのでそれほど寒くはないが、後ろに乗っている山羽は寒いのではないか……などと考えて、「ああ、そういえば霊だったっけ」と思い直す。霊は、特に暑さ寒さを感じないらしい。山羽は年中、生地の薄い長袖のワンピースを着ていて、真冬などは、見ていると、僕の方が寒くなる。 (そろそろ、『(はり)テラス』だな)  奈良から1時間ほど走ると、『針テラス』という道の駅がある。僕はトイレ休憩のために立ち寄ることにした。
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