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2、3分歩くと、ススキ野原が現れた。大人の背丈程に伸びたススキが、一面に生えている。
「きれーい!」
山羽が両手を広げて、楽しそうにくるくる回っている。まるで踊っているかのようだ。
「先へ進もう」
僕は笑いながら山羽の肩を叩くと、更に先を目指した。
曽爾高原は、倶留尊山と亀山という山の麓に広がっている。2月から3月にかけて山焼きが行われ、春から夏にかけては、青いじゅうたんが敷かれたような姿になる。秋にはこのように、一面にススキが生えるのだ。
高原の中にはお亀池という池がある。湿原特有の希少な植物が生えていて、中に入ることは禁止されている。
僕たちはお亀池までやって来ると、周囲をぐるりと囲む遊歩道を歩き出した。遊歩道は亀山峠にまで繋がっている。下からでも、峠を目指して、坂道を登っていく人々の姿が目視できた。
「せっかく来たし、登ろうか。山羽」
落ちていたススキの穂を拾ったのか、子供のように振り回している山羽に問いかけると、
「えーっ?あそこまで登るの?疲れそう。嫌よ」
とつれない返事が返ってきた。
「霊なんだから疲れないだろ」
「気分よ、き・ぶ・ん」
唇を尖らせている山羽に「行くよ」と声をかけ、登山口に向かった。
峠の上まで行くには丸太で補強された階段を上るのだが、丸太と丸太の間の土が流れてしまったのか、階段の体をなしておらず、逆に歩きにくい。
四苦八苦し、ぜえぜえと息を荒げながら頂上まで行くと、一陣の風が吹き抜け、僕の前髪を揺らした。じんわりとかいていた汗がすぅっと引いていく。眼前には広い高原の風景がパノラマのように広がっていて壮観だ。下からだと植物が邪魔でよく見えなかったお亀池も、上から見ると形がよく分かる。
しばらくの間、頂上のベンチに座り、風景を眺めた後、僕たちは登って来た道を下りて行った。
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