『なぜ、こうなった……!』

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今にも泣き出しそうな空。 ここ、マヒナ地方の魔法騎士団付属学校での一日の授業を終えてから、真っ先に視界に入ってきたものはそれだった。 今日も幼馴染の彼女と、待ち合わせをして帰る予定だというのに。 騎士団付属学校近辺の女学院に通う彼女は、共に帰れる時は大抵手作りの菓子を持参してくれている。 近所の公園のベンチにて二人で食べてから帰るのが、最近の常となっていた。 今朝一緒に登校する際に、『今日のお菓子は期待しててね! お母さんにも太鼓判押されたくらいなんだから』と言っていた彼女が浮かぶ。 通学鞄とは別のバスケットを携えていた。 中身は教えてくれなかったけれど、彼女の強気な笑みから相当の自信作と見てとった。 菓子作りが趣味である幼馴染のせいですっかり甘党となってしまったが、まだ見習いの身とはいえ魔法騎士の立場としては、なんだかちょっと恥ずかしい気もしている。 が、半日魔法の鍛錬に明け暮れた後で食べる甘いものというのは、格別に美味しくて。 しかし、この天気である。 雨なら雨で早々に帰宅し、彼女宅に赴くか我が家に彼女を呼んで食べればいいのだが。 出来ればこの些細な楽しみは、屋外で済ませてしまいたかった。 なぜなら我が父は中央の魔法騎士団の師団長であり、何かと人の出入りが多い。 また彼女も彼女で、実は名家のご令嬢だったりするのだ。 思案していると、待ち合わせの場所まですぐに着いてしまった。 先に制服姿の彼女が待ってくれている。 「すまないルナ。 待たせてしまったか?」 「うぅん、さっき来たとこ。 鍛錬お疲れさま。 今日も厳しかったの?」 「うむ……より強固な魔法を放つためには、より強固な肉体が必要という……少々言葉は悪いが脳筋的思考の講師でな。 何故木枯らしが吹き荒れる中、校庭を二十周もせねばならぬのか……!」 彼女のほんわかとした笑顔を見ていると、ついつい愚痴の一つも零してしまう。 しかしそれを、彼女はいつも受け止めてくれるのだ。 感謝している。
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