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「あのね……聞いてほしいことがあるの」
家に向けて歩き出しながら、隣りの彼女が切り出してきた。 横顔を覗き見れば、その表情が冴えないことが分かった。
「どうした?」
「うん……ん、あんまり褒められた行為じゃないことはわかってるから、そこはつっこまないでね。 問題は内容だから」
「ん?」
「五限の授業中、ちょっと居眠りしちゃって……ちょっと今日お昼が多くてお腹いっぱいでね! さらに苦手な数学でね! まぁ……それはそれで、うん、変な夢をみたの」
……夢、か。 夢の話で相談されても、とは思ったが顔には出さないでおいた。 この幼馴染の機嫌を損ねてお菓子を食べる楽しみを逃すなどという、愚かな失敗をしたくなかったからだ。
そんな思いにはお構いなく、彼女の話は続く。
「なんともいえない空間でね、頭の中に響くような感じで声がするの。『世界を動かし者の子らに告ぐ』って……」
たしかに彼女は名家の令嬢だ。 名家というのは正しくは『コランダム四大名家』といい、つまりは彼女の家柄はマヒナ地方で一番権威のある家柄、となる。
百年ほど前までコランダム世界は、二大種族間にてずっとずっと争ってきた。 永きに渡るその戦いを終結させた事例は後世になって『両族統一』と呼ばれている。
その際に武勲があった家柄が『コランダム四大名家』だ。 コランダム世界の四つに分かたれた地方のうちの一つを直接的に治めることを、中央から任命された家柄である。
しかし、その武勲はもう百年前の話であり、彼女の曾祖父も祖父も存命ではない。
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