『なぜ、こうなった……!』

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*** 帰宅後服を着替え、母にルナ宅を訪問する旨を告げた。 ルナがお手製の菓子を食べて欲しいと言っていることを強調してしまった。 昔から母には、『分不相応を弁えなさい』と言われてきている。 母の了承を取り付けるのにやや手間取ってしまったが、まだ降りやまぬ雨の中を名家にお邪魔する。 彼女も大袈裟だと言うように別に使用人がいる訳でもないし、十分に大きいお宅ではあるが特別に豪邸だという訳でもない。 「あ、マサいらっしゃい。 準備出来てるからあがって」 彼女の物言いに違和感を覚える。 いつもなら……彼女は両親に声をかけるのだ。 彼女の母は心地の良いおもてなしがとてつもなく上手な方で、気持ちよくご挨拶をいただいてから彼女の部屋にあがるのが常なのだが……。 「なにか、忙しくされているのか? なんならうちに来るか……?」 「うーん……大丈夫だと思うけどなぁ……。 あのね、さっきの話。 五時間目の話。 あれを父さんたちにしたら、なんでだか二人とも顔色が変わっちゃって……で、あちこちに電話かけ始めたりして。 なにか心当たりがあるのかも知れないけど」 言いながらも階段を上り、突き当たりの彼女の部屋に通される。 いつ来てもきちんと片付いており、ぬいぐるみなどではなく花や緑で溢れている。 彼女の自信作とは、見た目からして間違いなく美味しいと断言出来るアップルパイだった。 既に机には二人分のお茶の準備も整っている。 促されて席に着くと、彼女はティーポットから紅茶を注いでくれる。 「断面といい……この照り、焼き色といい……実に美味しそうだ」 「でしょでしょ! 帰り道だと出来ないけど、家だと温め直しも出来るからね。 ささ、召し上がれ」 彼女が切り分けてくれているパイをありがたく頂く。 美味しくない訳がない。 「……ん、美味い。 パイも美味いが中のリンゴの甘さがちょうどいいな」 思ったままの感想を述べると、いつものように彼女が照れたように顔を赤くして微笑む。 この顔がまた、たまらなく愛おしい。彼女の美味しい菓子とこの顔を拝むことが出来るのは、幼馴染の特権だと思っている。
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