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「ほらいらした。 はっはっ、『笑う門にはフク来たる』ですな」
パビエーダさんが実に相槌をうちにくい紹介をなさってくださり、私は慌てて立ち上がって彼に頭を下げた。
「えぇと、折角のご歓談に突然私のような若輩者がお邪魔してしまって、なんだかとってもすみません……!」
しかしながら、私の向かいに勧められて腰掛けるイケジジは、私を見て柔らかく微笑みかけてくださったのだ。
「いえ。 私から見て貴女は……先輩にあたりますからね。 そんな貴女とお話がしたかったのです」
フクさんの熱がこもったようなその言葉に、シーニー様がやや首をかしげられた。
「フクさん。 我々は席を外したほうがよろしいですかね?」
「いえそんな。 シーニー様にもパビエーダ君にも、ぜひとも聞いていただきたい話です……あなたがたは、このコランダム世界の未来を担っていかれるのですから」
そうやって離席されようかとしたお二人を場に繋がれ、彼は私に言われたのだ。
「私は。 古ルビ族にて『新生コランダム族』を生み出す家系に生まれましたが、そこから運良く逃れられた者です」
「えぇえ?!」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。 目の前のイケジジさんは、まさかの結構な繋がりがあるお方だった―――
(ん……今回のイチジクの旅。 そだね、ホテルと博物館と……気に留めときなよ、後々のために)
唐突に、今朝にコラン様に囁かれたことを思い出した。 主様……こうなる事を予見されていたのだろうか。
「大丈夫、ですか?」
「え、あ……」
彼に顔を覗き込まれて、涙が零れていたことに気がつく。
「あ、すみません、その……コラン様、と。 先程お別れしたことを、思い返してしまって」
権威ある方に年輩の方に失礼のないように、場をしらけさせないように。 無理に笑顔を作って場を取り繕おうとする私に、フクさんは仰った。
「神様が敷かれた道に……深く関わり過ぎてしまったのですね。 ですが、それはきっと。 苦難をも伴うけれども《楽しく幸せな道》であったのでしょう」
「え……」
「神様が敷かれた道はイコールで『運命』であると言えるでしょう……しかし、こうとも言い代えられませんか。 『縁』である、と」
思わず目を見開く。 顔を上げてフクさんのお顔を凝視してしまう。
「こうして私と貴女が今話しているのも、神様がもたらしてくださったご縁なのです」
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