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『久しぶりだね、フクちゃん!』
私には昼寝の習慣はないのだが、今日に限って昼食の後に微睡んでしまった。 その際に、私の運命を決定づけたやんちゃ坊主の神様と再会したのだ。
『いやぁ~……立派すぎるほど立派になったね! やっぱりフクちゃんは凄い人だったんだ。 おいらも嬉しいよ』
あの時と変わらない少年のままの彼。
私が彼に出会ったのは……私が十五になる少し前だ。 私の家のしきたりに辟易し絶望し……命すら投げ出そうかとしたあの時。 一人枕を濡らしていたら、いつしか私が夢なのか現なのか……そんな状態の際にいつの間にか隣にちょこんと座っていらした。
コラン様は私を感慨深げに何度も眺められてから、なんとも懐かしいいたずらっ子の笑みを浮かべて、尋ねられた。
『へっへー、フクちゃんは幸せになれたよね? 聞くまでもないかな。 いい歳のとりかたしてるよ』
コラン様にはいくら感謝してもしきれなかった。
あの時―――私の死への覚悟から、私が歩むはずだった未来を具現化した私の偽物というかダミーというのか。 そんなものを作り上げられた。 これを置いて逃げろ、と。
私はコランダム様の悲願のために、新生コランダム族を創出しなければならないというのに。 コランダム様が私に自由への道を示されたのだ。
―――ん。 あのね……神様の願いってのは。 何よりも『命の幸せ』なんだよ?
フクちゃんには、別の未来が待ってる……おいらにはそれが分かるから。 なんとかしてあげたいんだよ―――
そう仰ったコラン様は私に、輝かしい未来への餞別だと言われて紅なる果実を賜ってくださった。 強烈に酸っぱい梅干しだった。 コラン様も一緒に食され、二人して酸っぱい顔になった。 いや、正しくは一人と一柱だけど。
―――これね、トミばあの奇跡の梅干しってんだ。 フルール地方のおトミさんっていうおばあさんがね、昔に漬けた梅干し。 すっごい酸っぱいでしょ? でも、スッパイは成功のもとだから!
フクちゃんの人生がこれから成功することを祈って。 おいらからの餞だよ―――
私は―――神様の果実を、神様と共に食したのだ。
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