『なぜ、こうなった……!』

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玄関に行き靴を履く、準備といえばそれくらいだ。 彼女は彼女の母にフォーゲイ地方のアスカに会いに行く、という旨を伝えていた。 名家ゆえに、外出の際はキチンと報告しておかねばならないようだ。 「よっし。 空間捉えるから、ちょっと待ってね……」 玄関先にて彼女は、胸の前で両手で鉤括弧を作る。 彼女の胸に掛けられている青い宝玉のペンダントが、それに呼応してチカチカと輝き出す。 彼女は鉤括弧の中に、青い光を吸い込むようにして十分にたゆたわせた。 「掴まってマサ、行くよ」 彼女はその青い鉤括弧を顔の位置まであげる。 青い空間にこれから行こうとする空間をイメージで伝えると、彼女の魔法が行使される。 瞬間的に青い光に包まれて、彼女と共にそのまま空間転移に入った。 (まったく……この魔法が世に広まったら、世の中から遅刻というものが激減するだろうな……) この魔法のお世話になる度に、そんなことを考えてしまう。 フォーゲイ地方はこのマヒナ地方からかなりの距離がある故に移動時間も結構長い。 移動中はまるでトンネル内にいるかのように、真っ暗でかろうじて周辺が見える程度の明るさしかない空間を通っている。 体感時間二、三分ほどで辿り着いたフォーゲイ地方は、彼女の予想どおり雨は降っていなかった。 しかもマヒナ地方と季節が違い、もう夕方だというのにまだまだ日は高い。 体感温度もかなり違う。 木枯らしどころか、ここでは蝉が鳴いているのが聞こえる。 「……あれ。 間違ってはいないはず、なんだけど……」 我々の目の前には、工事中で足場が組まれた家屋があった。 工事中の耳に障る騒音が、なんとも喧しい。 「ここ、に……アスカの『診療所』があったはず、なんだけどなぁ……建て替え? 増築?」 「いや、建て替えや増築どころか。 基礎から組んでいるようだが……彼女に何かあったのか?」 「うぅん、何かあったらなんなりと連絡くらいはくれる、はず……? や、どうだろ、なんたってアスカだしなぁ」
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