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二.
窓の外の壮大な宇宙空間や青く輝く地球などにはさほど興味も示さぬ遊佐木が、無重力の浮遊感もあって何となくうとうとと眠気を覚えていると、背後の席から、
「あの……もしかしてあなた方は学者さんか何かなのでしょうか?」
ふいに声がかけられた。
「ん?あぁ、まぁ、一応そうだが、何か?」
答えて首を向けた遊佐木と、つられて徹も振り返ると、彼らのすぐ後ろの座席には二人にそっくりな男女が座っており、すまなそうに、しかし宇宙へ来たという高揚感も隠せないと言った表情で遊佐木たちを見詰めていた。
「……徹君、どうする」
「いや、どうするも何も……どうしようも無いですけど……とりあえず……何ですか、あなた方は」
瞬時に様々な憶測が二人の脳内を駆け巡ったが、何であれ確かにどうしようも無い状況ではあるため、怪訝ながらもできるだけにこやかな表情で徹が尋ねると、
「いや、すみません。……えと……私たちの顔、どう見えてます?」
「やっぱりベタに鬼とか悪魔的な……?」
そっくりさん二人が尋ねてきた。
「いえ、僕たちにそっくりな人間に見えてますけど」
「えぇ!?……そうなんですか……やっぱり学者さんは違うんだなぁ、そういう誤認もあるんですねぇ」
「だから、科学が強まるとそうなっちゃうんだよ。今どき鬼だの悪魔だのに見えるわけ無いんだよな」
徹の答に不可解な言葉を並べながら驚き落胆している様子の二人に、
「というか何か用があったんじゃないんですか?」
敢えて一切触れること無く表情を変えることも無く徹が尋ね返す。
「あぁ、そうなんですよ、すみません。実は私たちはいわゆるあやかしと呼ばれる類のものでして……。しかしこうしてすっかり科学や文明が強まったおかげで存在感が無くなり、わざわざ扉を抜けて現れてみても居心地が悪いだけになってしまっておりまして、いっそ別の星、宇宙にでも居場所を探そうかとこうして代表者二人で視察に来てみたのですけれども」
そう言って遊佐木そっくりの女が頭を掻くのを、しばらくじっと見詰めていた遊佐木本人だったが、
「……徹君、どうする。なかなかにエキセントリックな変質者が紛れ込んでるじゃないか。我々以外の搭乗者は厳しい審査をクリアしてきてるんじゃなかったのか」
視線を逸さぬままはっきりとした口調で隣の徹を問い詰める。
「いや、まぁその審査のうちの心理検査を監修した僕が言うのも難ですけど、あれはあくまでも悪意や重大な問題のある人間をふるい落とすためのものであって、この程度ならすり抜けられなくは無いんですよね」
「あぁ、いえ、そういうんじゃないんです。私たちがここにいられるのは、我々の持つ『誤認』という能力のおかげなんです」
「そもそもは『客観的には極めて不自然なのにそこにいるのが当然で誰も疑わなくなる』というものなのですが、そのついでに『相手が求める姿に見せる』というのもあったりしまして」
諸々の疑いを抱き始めた遊佐木たちに後席の二人が弁解するが、
「……くそ、座席の移動はできないのか」
「電車じゃないんだから無理ですよ。だいたいこの狭い船内で逃げ場なんてどこにもありませんって。諦めていったん話に乗ってあげましょうよ。心理学的にはそれなりに興味深いサンプルの予感がしますし」
学者二人はそれぞれに勝手なことを言っている。
「あの……全部聞こえてるんですけど」
「そういうアレじゃないんです。本当に幽世から来たあやかしと呼ばれてるアレなんです」
「かくりよ?」
「話の流れからすると『あの世』的なことじゃないですか」
「ご理解頂きありがとうございます」
「しかしまぁあやかしなどと言っても宇宙は初めてのことですし、学もありませんし、こうして実際体験して窓外の光景を眺めているだけでも次から次に色んな疑問が浮かんでくるもので、それをもしよろしければご教授頂けたらと……」
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