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四.
「……ったくもう」
そんな二人から遊佐木へと視線を移した徹がため息をつく。
「うるさいな、そもそもはお前が妙なものを受け入れたからだろうが」
「えぇ?でもいつの間にか先生も質疑応答を始めてましたよ」
「それはあちらの巧妙な誘導だな。謎のファンタジー用語で興味を惹かせてからの流れで……」
「間もなく当機は地球へ帰還致します。皆様、今一度シートベルトのご確認をお願い致します」
遊佐木の言葉を船内アナウンスが遮った。
ふぅ、と息をついて、これ以上語るのも面倒臭いと言った顔の遊佐木が背もたれに身を預けると、背後の座席からあやかしなる二人のひそひそとささやき合う声が聞こえ始め、眉間に皺を寄せながらも遊佐木はぼんやりと聞き流すことにした。
「宇宙は、すごくきれいだけど、なんだか冷たいな。冷たくて、暗くて、地に足も着かずに曖昧で、孤独な感じ」
「我々は夜の住人だと言うのに、宇宙のこの闇は、怖いものな気がする」
「あぁ、地球はきれいだなぁ。あったかくて、眩しくて、地面に足が着いて、人間や動物がいっぱいいて」
「昼の光があるからこそ、我々は夜を謳歌できていたんだなぁ」
「宇宙は、この世界は、本当は闇なんだ。そこに地球のような特別な光り輝く場所があって、だからこそ我々はそこに引き寄せられ、扉が開くんだよ」
「……あぁ。そうだな。扉……扉……あぁ、あった!やっぱりあったよ」
「本当だ!やっぱりこの瞬間も逢魔が時になるんだな!」
「早く帰ろう、怖い怖い。宇宙は怖いよ」
「そうだな……。あの……先生、色々失礼を致しまして大変申し訳ございませんでした。今後もあなたのような科学者のご活躍によって、我々は誤認を用いたとしてもかつてのようないかにもあやかしといった姿には見られなくなり、終いにはもしかしたら科学的に説明のつく何かとされてしまうのかも知れません。しかしそれでも、その後にも、我々が時折この美しく暖かく眩しい地球へとやって来てしまうことを、どうかお許し下さい……」
「早く早く。扉が閉じてしまうよ」
「あぁ。……それでは、本当にありがとうございました」
その言葉にさすがの遊佐木も振り返って確かめようとした、瞬間、船は大気圏に突入したらしき激しい揺れに襲われ、遊佐木はやむを得ず首を前に向け直した。
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