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五.
やがて船は、遊佐木が脅したようなことなど何も起きずに無事に地上の滑走路へと降り立ち、ベルトを外して立ち上がった遊佐木と徹が背後の席を振り返ると、そこには二人にそっくりなあのあやかしなる者たちの姿は見当たらなかった。
「ほぅ」
その時初めて、遊佐木が興味深げにその二つの空席を見詰めながら、顎に片手を当て口元を緩ませた。
「おい、ここに二人搭乗者がいただろう」
船を降りるように笑顔で勧めて回る添乗員に遊佐木が問うが、
「いいえ、こちらは空席です。船の総重量の関係でどうしてもこの席には誰も乗せることができなくなりまして。まぁ、観光船としては今後の課題ですね」
添乗員はごく当たり前のようにそう答えた。
「どういうことなんでしょう。二人揃って幻覚を見てたわけないですし」
船を降り基地へと向かう送迎車の中で徹が首を傾げるが、
「つまりはこれも、彼らの言う『誤認』によるものなのではないのか?最初から乗っていなかったことになる、もしくは、我々だけには乗っていたことになる、という類の」
「うぅーん、そんなご都合主義的な超能力を認めてしまうんですか?それになんで僕らだけは記憶に残ってるんですか。そんな自由に人の認識を操れるなら、ついでに全部忘れさせることもできそうじゃないですか」
「そうだな……。それはつまり、我々が初めての宇宙旅行でハイになって妙な幻覚を見ていたので無いのならば……要するに、彼らは物理学的に実在したから、じゃないのかな」
「えぇー?そうなりますぅ?」
徹がさらに首を傾げる。
「まぁ若干浪漫的な話にもなるがね。とにかくそこにいたはずの彼らが忽然と消えたという現象はあるんだ。それは認めようか。そして彼らは、あの口ぶりからするとかなり頻繁に『逢魔が時』に『扉』を抜けて幽世から我々の世界へと出入りしているということらしい。これをだな、せっかく壮大な夢と冒険の宇宙旅行などに行ったのだから、最大限に大袈裟に科学的解釈を付けるとしたら、だ」
しかしそこで車が基地に到着し、
「いかがでしたか!?」
「会見会場はこちらです!!」
叫びながら駆け足で群がってくる人間たちを、
「いったん休ませてくれよ、初めての宇宙旅行の緊張で精神的にも疲れ切ってるんだ」
などとあしらい、
「すみません、なんだか変な目眩もしますね、宇宙に出るって大変なことなんですね、でもとてもエキサイティングで素晴らしい体験ができましたよ」
と適当なリップサービスを送る徹を引きずって小さなラウンジへと入った遊佐木は、無料の自販機から缶コーヒーを取り出すと、椅子に腰掛けた。
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