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「私には子どもがいるんだよ」
「お月様の?」
学校の授業で宇宙の秘密をやっているけれど、月に子どもがいるなんて聞いたことがない。
「ほら、そこに映っている子だ。可愛いだろう?」
そこってどこだろう、ときょろきょろすると「池だよ」と声が降ってきた。
池には三日月が浮かんでいる。
「これ……お月様がうつってるだけだよ?」
「いいや、私の子どもさ」
訳がわからない、とぼくは首をひねった。お月様は「反射」って言葉を知らないんだろうか。
「あのね、これは『反射』って言って鏡みたいにお月様の姿が……」
「知っているよ」
ぼくの言葉を遮るように言った。木枯らしが吹き抜けて、思わず首をすくめる。
「真実はそうかもしれない。けれど私が子どもだと思っている。それでいいんだよ」
ぼくが水面とお月様を見比べていると「だってその子は私が悲しいとき、微笑みかけてくれる。優しいだろう?」と付け足した。
そう言われてみれば、池の三日月は水面が風に揺れるたび、笑ったみたいに見える。
「その子が笑ってくれれば、私は幸せな気持ちになるんだよ」
毛布みたいに優しい声がぼくをくるむ。そうかな、ぼくはお父さんとお母さんに笑ったりしてたかな。
お父さんとお母さんの笑顔はすぐに思い出せるのにな。
「お月様……ぼくのお父さんとお母さんは幸せかな?」
「そりゃあもちろん」
「ぼくがほんとの子どもじゃなくても?」
「その笑顔があれば十分さ」
お月様の温かい声が夜空いっぱいに広がった。群青色の空にひとすじ星が流れて、お月様が笑った気がした。
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