お月様には子どもがいる

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「私には子どもがいるんだよ」 「お月様の?」  学校の授業で宇宙の秘密をやっているけれど、月に子どもがいるなんて聞いたことがない。 「ほら、そこに映っている子だ。可愛いだろう?」  そこってどこだろう、ときょろきょろすると「池だよ」と声が降ってきた。  池には三日月が浮かんでいる。 「これ……お月様がうつってるだけだよ?」 「いいや、私の子どもさ」  訳がわからない、とぼくは首をひねった。お月様は「反射」って言葉を知らないんだろうか。 「あのね、これは『反射』って言って鏡みたいにお月様の姿が……」 「知っているよ」  ぼくの言葉を遮るように言った。木枯らしが吹き抜けて、思わず首をすくめる。 「真実はそうかもしれない。けれど私が子どもだと思っている。それでいいんだよ」  ぼくが水面とお月様を見比べていると「だってその子は私が悲しいとき、微笑みかけてくれる。優しいだろう?」と付け足した。  そう言われてみれば、池の三日月は水面が風に揺れるたび、笑ったみたいに見える。 「その子が笑ってくれれば、私は幸せな気持ちになるんだよ」  毛布みたいに優しい声がぼくをくるむ。そうかな、ぼくはお父さんとお母さんに笑ったりしてたかな。  お父さんとお母さんの笑顔はすぐに思い出せるのにな。 「お月様……ぼくのお父さんとお母さんは幸せかな?」 「そりゃあもちろん」 「ぼくがほんとの子どもじゃなくても?」 「その笑顔があれば十分さ」  お月様の温かい声が夜空いっぱいに広がった。群青色の空にひとすじ星が流れて、お月様が笑った気がした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加