「みひつのこい…」

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「別に俺は悪くない…悪くないよ…」 “友人”は年に数回、酔うと“ある話”を苦しそうに語る。 学生時代、週末に、友人は同じゼミ仲間の“Ⅾ”と“Y”を誘って、県境にある山へ、 車を飛ばした。彼等が目指すのは山奥の廃墟…彼等はここに忍び込み “肝試し”をするつもりである。 設置された監視カメラが“飾り”であるのは友人自身が保障していた。彼は、この廃墟の事を知っていた。しかし、ⅮとYは、その事を知らなかったと言う… 自分達の目線まで届く草を掻き分けると、蔦と錆に覆われた鉄製の建物が現れた。 ボロ付いたドアに鍵はかかっていない。足を踏み入れ、ガラクタとガラス片を盛大に踏み壊していく。窓から入る夕暮れの陽射しがボンヤリと照らす室内を散策していく。 「何か、首のねぇ白衣野郎が出るって言ってたけど、出ねぇな」 「ああ、所々ガタついてるだけ…帰んべよ」 早くも飽きた様子の2人に友人は苦笑しつつも頷く。この二人の性格はよく承知している。2人を促そうとうする自身の声は、Ⅾが上げた笑い声に掻き消された。 「おいおーい、何だこれー?ゼッテェヤベェ奴じゃん」 彼が指さす先は通路の端に積み上げられた夥しい数の石の山… 妙な存在感を持つ、その石に仲間達は新しい玩具を見つけたようにはしゃいでいた。 なるべくそこを見ないように努める友人は出口に進む。少し遅れて、後ろの2人は楽しそうに床を踏み鳴らし、彼に続く。 車に戻った時、ⅮとYのポケットが膨らんでいる事を、友人は確かに確認した…  「それから、アイツ等いなくなった。大学にも、家にも帰ってない。本当に消えちまった。俺知ってたんだ。あそこの話…教えた奴が言ってた。“まるで、賽の河原の石積み…”って、あの石見ると、何でか魅入られちまって、拾ったら最後って事も… だけど、俺、隠してた。別に意味なんてないよ?ただ、反論とかされて、説明すんのたるかったし、あいつ等、そうゆうとこ、ねちっこかったし…そもそもありえないと、信じてなかったから…だけど、ホントに消えちまった…」 友人は最後に、自身の行為は、何が起きるかを知っていたが、何もしない“未必の故意”だと言って泣き崩れると言う…  そこまで話し“私の友人”は笑う。彼が後悔する友人に話を教えた“張本人”だ。 「まぁ、アイツは忘れてるから、そのままだけどな。適当に流してるよ。 責任転嫁されても、困っからよ。アイツ、根に持つから」 そう言って、彼は低く笑う…(終)
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