花の香りに誘われて

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――貴方が戦地へ発ってから、もう随分と月日が流れたような気がしております。まだ、たったの一月しか経っていないなんて、信じられません。そして、そのたった一月の間に、貴方が亡くなってしまったなんて、尚更信じられません。  あの夜、貴方は私に触れて、誓いを立ててくださいました。生涯、あなたの温もりを胸に生きていこうと思っています。けれども、現実は厳しいものですね。  来月結婚することになりました。先日、父母が「お前の結婚相手だ」と写真を見せてくれました。  △△市の、お医者の一族の次男坊で、学校の先生をされているそうです。お顔が少し、貴方に似ています。でも、少し身体の弱い方のようです。丈夫さが自慢の貴方とは、正反対です。――  手紙はここで終わり、日付と宛て名、そして祖母の署名が続く。  見てはいけないものを見てしまった。綺麗に畳んで元の封筒に仕舞う。文箱の中には、ほかにも何通か手紙が入っていたけれど、ほとんどは下書きか、何かの理由で出さず仕舞いになったものらしかった。  その中に、私の父に宛てて書かれたものがあった。日付は、最初の手紙から28年後の同じ日だった。 ――先日は、色々と不愉快な思いをさせてしまい、申し訳なく思います。  □□大叔父は、生来気位が高く、高飛車なところがあるのです。二十七にもなって、どこか幼いままの〇〇(母)の行く末を案じているからこそ、余計に貴方に辛く当たってしまったのでしょう。  けれども、貴方が、「この若造が」などと罵られても、黙って耐え忍んでくさったお蔭で、全て丸く収まりそうです。今後、本家の人間が、貴方と〇〇の結婚について、口を挟むことは無いでしょう。――
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