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金曜日
「ばあや、ばあや。久しぶりにアレを作ろう!」
リクライニングチェアを揺らしながら読書をしていたぼっちゃまが急にアレというものだから、ばあやははて?と記憶を辿らせていた。
「ほら!昔よく作ってたじゃない!ばあや特製シフォンケーキ」
あぁ!と思い出したばあやは「畏まりました」とリビングを履いていた箒を掃除入れに戻し消えていった。
5分後、手際良くシフォンケーキを作る用意したばあやはぼっちゃまをキッチンに呼び出した。
「どうしたんですか?急に」
砂糖を測っていたばあやはふと、ぼっちゃまに尋ねてみた
ぼっちゃまは卵白と黄身を器用に分けていた。昔は卵白によく殻が入って取れなくなっていたが、今では殻の1つも落とさなかった。
「いやね。久々にばあやとお菓子作りをしたくてね!やっぱりばあやといえばシフォンケーキかな?と思って」
分けた砂糖と黄身をミキサーで混ぜ合わせる。うまくミキサーを扱わないとボールから黄身が弾かれてしまうのでぼっちゃまは慎重に操作する。
「懐かしいでございますね。昔はよく作ってましたね。シフォンにクッキー、みたらし団子、水飴なんかも作ってみましたね」
「あぁ!あの黒い物体になってしまったやつね!アレを噛んだ時の苦さときたら今でも忘れられないよ」
完成した生地にシフォンの型を流し込む。ばあやは手際良く台座についた生地を手ぬぐいで拭いていた。
オーブンで約45分。大量に出た洗い物をばあやがせっせと洗い、ぼっちゃまが布巾で洗い物を拭く。
「ぼっちゃまが自ら進んで洗い物を拭く時が来るなんて思ってもみませんでした。
昔はやったらやりっぱなしでよく叱らせて頂きましたね」
「なんだい?ばあやの目が最近赤いのは昔の僕と今の僕を思い出しては泣いているのかい?
それとも、また僕を叱るのかな?
まぁ、ばあやは僕の母親代わりだからどんどん褒めて叱ってくれた方が嬉しいんだけどなぁ」
ばあやは不意にぼっちゃまからそっぽを向いた。
「なんだい?やっぱり泣くのかい?」
「目が赤いのは老眼からくるドライアイでございます!
ほら!まだ拭き残しがありましてよ!ぼっちゃまは褒めるより叱る方が多いのでしっかりなさってくださいまし!」
チーン。ぼっちゃまとばあやの思い出のシフォンケーキの出来上がる音は、拭き直し!と言ういつもの大きな声に掻き消された。
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