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火曜日
その日、ばあやは寝室から差し込む日の光が眩しくて起きたわけではなかった。
意識と無意識の間に割り込むかの様に漂ういい匂いが、彼女の意識を徐々に呼び起こしていく。
目が覚めたばあやは匂いにつられて向かうと、そこにはぼっちゃまが広いキッチンでセカセカ動き回っていた。
「まぁ!ぼっちゃま。何をなさっているのですか?」
ぼっちゃまは卵をボールに割り、時計回りに菜箸で掻き回した。
「おはよう!ばあや。ちょっと朝食でも作ろうと思ってね。
今玉子焼きを作るから待ってて!」
ぼっちゃまは四角い玉子焼き専用のフライパンに油をひきかき混ぜた卵を入れた。ジュワッという音と共に入れた卵の周りが固まり始める。
「そんな事はこのばあがやりますのでぼっちゃまはゆっくりしていて下さいまし」
慌ててキッチンに駆け寄り、ぼっちゃまと交代しようとするばあやをぼっちゃまは手を突き出し静止させた。
「昨日は大変だっただろう?だから、ばあやはゆっくりしててくれ!」
ですが、とばあやは食い下がろうする。
「今日はいつも世話をしてくれるばあやのためにご飯を振る舞いたい」
とぼっちゃまはばあやから目を逸らし少し恥ずかしそうに言うのでばあやも諦めて甘える事にした。
「ですがね。ぼっちゃま…」
「玉子焼きの味付けは如何なさったのでしょうか?」
あ!というぼっちゃまの声がキッチンに響き渡る。
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