1人が本棚に入れています
本棚に追加
おばあと私
おばあの家は電力の容量が小さかったのか、すぐにヒューズがカシャッと飛んで、突然目の前が真っ暗になることがよくあった。
この突然すべてが真っ暗になる感覚を何度か体験してから、突然死んでしまうのもこんな感じなのかもしれないと思うようになったのは、母が事故で亡くなり、おばあと一緒に住みだして半年くらいたった時だった。私は12歳だった。
「突然死ぬ感じって、ヒューズがカシャッて飛んで、突然目の前が真っ暗になる感じと同じかな?」
お風呂上りにドライヤーで髪を乾かしていたら、またまたヒューズが切れてしまった。慣れた足取りで椅子によじのぼって分電盤のブレーカーをあげながら私はおばあに聞いたのだ。今日はどんな格好のまま静止したのかな?そう、少しわくわくしながら。
おばあは私がブレーカーをあげれるようになってからは、ヒューズが飛ぶと全ての動きを止めて静止している。
「あぶないやん。年寄りが転んだら」という理由だったけど、手も表情も、ヒューズが落ちた瞬間のまま止まっているのだ。大抵、その顔は変顔で私はいつも大笑いしていた。
今日は、化粧水を叩きこんでいる瞬間にヒューズが落ちたみたいだ。手は顔ではねたまま、口は半開きのまま歪んで止まっていた。電気がついて、ピコピコいろんな初期起動の音がしたのを合図に、固まっていたおばあは何事もなかったように再びパタパタと化粧水を叩きこみだす。
「うん?突然死ぬ感じ?そんなのいやや。こんな化粧水べったりの口が半開きのまま死ぬの?おちおち死ねんと違う?」
と顔に両手をギューッと押し付けて化粧水を浸透させながら一息に言う。
おばあは、おしゃれで、美意識も高くてとても孫がいるようには見えない(らしい。)まだ、看護婦として現役で、頭もよくて、そしてたぶんちょっとお金持ちで、なによりとってもおしゃべりで明るかった。
ママのお葬式では見たこともないくらい号泣していたけど、私を引き取ってからはいつも「私はあんたのおまけや~~当たりのおまけや~~」とよく言っていた。
「よかったなあ。私でも残っといて。大当たりやったな」
そう私の頭をなでなでしながらよく言っていた。
最初のコメントを投稿しよう!