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「父親がここの住職だったんだけど、再婚先の入り婿になるとかで八年前に還俗しちゃってさ。それ以来、仕方なく娘のあたしが住職やってんの」
世襲制ではないので誰が継いでもいいのだが、曽祖父の代から守ってきた陽苑寺が人手に渡ってしまうのは忍びなく、一人娘の珊瑚が出家して住職に就任したというわけだ。
「でも、住職たって名ばかりだし、僧侶の四人がテキトーに切り盛りしてくれてるから」
母親は十五年前に離婚していて、故郷の沖縄で居酒屋を営んでいる。珊瑚も父親の還俗でここに戻ってくるまでは沖縄で暮らしており、欠航でキャンセルになった旅行も母親のところへ遊びに行く予定だった。
「ところで、潤子さんって何歳?」
「二十八です」
「じゃあ、あたしとタメだね」
「そうなんですか? なんか嬉しいです」
同い年と聞いて親近感が湧いたのか、潤子は初めて笑顔を見せた。
ちなみに僧侶メンズたちは最年長の翠瞑が三十二歳、檸檬は三十歳、蒼蓮と紅鷹は二十六歳。出家した年度は全員が珊瑚と同期で、前住職がタウンワークに掲載した求人広告に応募があった中から厳正な審査で選んだ四人である。
寺院が僧侶をタウンワークで募集すること自体に疑問ありだが、そこらへんの裏事情はまたの機会に説明するとして。
今日のところは取りあえず、ぐっすりと眠って熱も下がった潤子から話を聞こうではないか──。
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