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陽苑寺へようこそ
蒼蓮は浮浪雲ひとつない空を見上げた。
心まで浄化されるような勿忘草色に思わず作業の手が止まり、竹箒を小脇に挟んで合唱する。
視線を戻した先に広がる景色は、昨夜遅くに日本列島を駆け抜けていった台風のせいでどっ散らかった境内。
「ぼっくらはみんなぁー生きているぅー、生きーているから歌うんだ〜♪」
玉砂利をジャリジャリと踏み鳴らし歌いながらやってきたのは、同僚僧侶の紅鷹。
蒼蓮と同じ薄墨色の作務衣をだらしなく着崩しているあたり、どうやら寝床から直行らしい。
「ソウちゃん、おはよ〜っす」
「遅いぞ。いったい何時だと思ってるんだ?」
「って、まだ朝の七時じゃん?」
紅鷹は参拝者用の手水で顔を洗うと、寝癖で固まった髪を手櫛でわしわしと梳いた。
僧侶=剃髪というイメージが強いが、髪型に関しては割と自由な浄土真宗。
「それに、スイちゃんたちだってまだ来てなくね?」
「翠瞑と檸檬は朝食の支度、珊瑚は明日まで有給休暇」
蒼蓮は他の同僚たちの名を挙げた。修行僧時代から共に励んできた僧侶メイトたちだ。
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