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プロジェクターで壁一面に映し出されているのは石垣島の青い海と白い砂浜、オーディオデッキから流れるBGMは三線が奏でるインストゥルメンタルの島唄。
寄せては返す波の音まで聞こえてきそうなその部屋の住人は、泡盛の空き瓶を枕に大鼾をかいていた。かりゆしルックの胸元がぽろりと開けている。
盆の供養祭が終わってようやく取れた休暇に三泊四日の沖縄旅行を計画していた珊瑚だったが、大型台風の通過で軒並み欠航となり、昨夜は我が身の不運を嘆いて飲んだくれていたのだ。
「あーもう⋯⋯うるっさいなぁ⋯⋯」
何度もドアを叩かれて仕方なく起きると、いつの間にか脱げていたショートパンツを探して穿いた。
珊瑚はこの寺で唯一の尼僧ながら酔っぱらうと着衣をどこかに脱ぎ忘れるというファンキーな酒癖の持ち主である。
「──珊瑚さん! 起きてください!」
ドア越しに呼ぶのは翠瞑。五人の中では最年長だが、誰に対しても敬語で話す生真面目な僧侶だ。
「休暇で休んでおられるところを申し訳な──痛っ!」
急に開いたドアに顔面を強打された翠瞑がうずくまっていると、珊瑚が酒臭い欠伸を放ちながら部屋から出てきた。
「起きたっつーの。いったい何さ? 朝っぱらから」
「すみません、ちょっと手をお借りしたいことが──あっ、何か着替えになるような部屋着か浴衣も一組、貸していただきたく」
「着替え?」
「はい、行き倒れの方が女性でいらっしゃいまして」
「あら、ま」
ここ陽苑寺は駆け込み寺ではないのだが、女性となれば放ってはおけない──珊瑚じゃなくて他の僧侶たちが。
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