陽苑寺へようこそ

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 珊瑚はいつか片付けるつもりで半年以上放置している衣類の山からスエットの上下をサルベージすると、(くだん)の行き倒れが運び込まれた寺務所へ駆けつけた。  座布団を敷き詰めた上に寝かされていたのは学校指定らしきジャージを着ているせいで少年に見えるものの確かに女性で、蒼蓮と紅鷹、檸檬の三人が車座で見守っていた。額には氷嚢が載せられている。 「ほらほら、お客様を着替えさせるから殿方たちは速やかに部屋を出てって。あ、モッちゃんは手伝って」 「えー、なんでモッチだけいいのさ? 俺だって女子の着替えを手伝いたい──痛ぇ!」  紅鷹がブーイングを入れ、蒼蓮にグーで殴られる。何度も言いたくないがそれでも僧侶か紅鷹。 「ありがとう、珊瑚ちゃん。わたしを女扱いしてくれて」  そう言って涙ぐんだ檸檬は男でありながら心は女性というトランスジェンダーで、珊瑚とは姉妹のように仲がいい。 「何を言ってんの、水くさい。モッちゃんは誰よりも女らしいよ。それよか早くジャージを脱がせなきゃ。ずぶ濡れのままじゃ肺炎を起こしちゃう」  にも拘らず蒼蓮たちが救急車や警察に通報せず寺に運び入れたのは、彼女が携帯電話の類や財布などの貴重品を何も持っておらずワケありに感じたからだ。家族のDVから命からがら逃げてきた可能性もあり、もしそうだったなら警察への通報は本人の承諾を得てからのほうがいいだろう。
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