5人が本棚に入れています
本棚に追加
「おじやをお作りしたのですが」
「翠瞑だけならいいよ、入って」
「では、失礼いたします」
一礼して部屋に入った翠瞑は、後に続いて入ってこようとした紅鷹の鼻先でピシャリと襖を閉じた。
スイちゃんだけずるい~の声が廊下をフェイドアウトしていく。蒼蓮に引きずられていったのだろう。
「起き上がれるようなら食べて。母屋のほうに布団を用意するから、薬を飲んだら眠るといいよ」
「はい、ありがとうございます」
土鍋から茶碗に取り分けたおじやを翠瞑から受け取った潤子は、陶器のレンゲでゆっくりと食べ始めた。
「……美味しい。卵の半熟加減も絶妙です」
「でしょ? うちの料理長は何を作っても三ツ星だから」
檸檬に褒められ、シャイな僧侶の翠瞑は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「料理長? ここは──民宿ですか?」
潤子のセリフに三人はズッコケそうになる。
「あーもう、さっき言ったじゃん。ここはお寺であたしたちは僧侶だって」
「すみません、そうでした。えーっと……」
「ここは陽苑寺。んで、あたしは珊瑚」
「わたしは翠瞑と申します」
「わたしは檸檬。染色体レベルでは男だけど、ココロは女だから安心してちょうだいね」
「は、はぁ……」
それって結局どっちなんですか? と訊きたい衝動に駆られた潤子だったが、男と答えられたら怖いので口を噤んだ。
気を失っていた最中に少しだけ意識が戻った瞬間があり、そのときにジャージを脱がせる手が二人分あったような……。
最初のコメントを投稿しよう!