図書館の彼

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思い出す? つまり私は彼と知り合いだってこと? 鳥飼くんなんて知り合い、いただろうか。頭の中を4年間の寂しいキャンパスライフが駆け巡る。 数えられるほどの友人を数え終えても、そんな人は出てこなかった。 「私、あなたと知り合いなの?」 「うん。やっぱり僕のこと覚えてないかな」 どうやら本格的に知り合いらしい。誰だろう。マスクで隠された顔が憎い。 「まぁいいや。最後まで成し遂げるために聞くけど、この本ありますか?」 このタイミングで、どうして次の本の話しなんかしてくるのかわからない。 差し出されてしまった行き場のない紙を、仕方なく受けとると、『2F ス208 野の花の詩』と書かれている。 「これはもう前に……それに、こないだのだって借りてないのに」 「その詩集は気に入ったからリピート」 「場所がわかってるのに?」 「その紙、渡さないと意味ないからさ」 そう言いながら、彼はつけていたマスクをはずす。 はずされたマスクの下をみて、私は彼を思い出した。
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