図書館の彼

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高校生の頃から、私は相変わらず本と一緒にいた。休み時間や放課後がつぶれるせいで、不人気の図書委員。放課後になると、ふらりと彼は図書室に現れた。 口許にある大きめの黒子が星形をしているせいで、星野くんと呼ばれる男の子。その呼び方が馴染みすぎていて、みんな彼の本名のことは忘れていた。 大体詩集を好んで読んでいた彼に、詩集作家になりたかった私は当時訊ねたのだ。 「星野くんは詩集を読むみたいだけど、どんなのが良いとかってあるの?」 「ん? 僕はインプットのためだから、あんまり参考にならないよ」 「インプット?」 「うん、ちょっと趣味で使うんだ。そんなことより中原さんこそ、どんなのが好きなの?」 よくわからない答えをもらったけれど、彼は1人の世界に浸ることで有名だったから気には止めなかった。 「私はやっぱり切ない感じのが好きかな」 「ふうん、例えば?」 「なんだろう。直接的な感じじゃなくて、当人にだけがわかるメッセージのやり取りみたいなもどかしいやつ」 「隠された2人だけの言葉って感じ?」 「そうだね。そんな風に伝えてくれる人がいたら素敵だなぁ」 思わずうっとりと、星野くんの向かいでほっぺを両手に預ける。 「そんなに具体的なら自分で書いてみたらいいじゃん」 「で、でも……」 「夢みたいなことも、続けていけば案外叶うもんだよ」 なぜだか説得力のあったその言葉に、背中を押された気がして、それから書いた詩はお姉ちゃんの一声でまさか本になった。
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