9人が本棚に入れています
本棚に追加
高校生の頃から、私は相変わらず本と一緒にいた。休み時間や放課後がつぶれるせいで、不人気の図書委員。放課後になると、ふらりと彼は図書室に現れた。
口許にある大きめの黒子が星形をしているせいで、星野くんと呼ばれる男の子。その呼び方が馴染みすぎていて、みんな彼の本名のことは忘れていた。
大体詩集を好んで読んでいた彼に、詩集作家になりたかった私は当時訊ねたのだ。
「星野くんは詩集を読むみたいだけど、どんなのが良いとかってあるの?」
「ん? 僕はインプットのためだから、あんまり参考にならないよ」
「インプット?」
「うん、ちょっと趣味で使うんだ。そんなことより中原さんこそ、どんなのが好きなの?」
よくわからない答えをもらったけれど、彼は1人の世界に浸ることで有名だったから気には止めなかった。
「私はやっぱり切ない感じのが好きかな」
「ふうん、例えば?」
「なんだろう。直接的な感じじゃなくて、当人にだけがわかるメッセージのやり取りみたいなもどかしいやつ」
「隠された2人だけの言葉って感じ?」
「そうだね。そんな風に伝えてくれる人がいたら素敵だなぁ」
思わずうっとりと、星野くんの向かいでほっぺを両手に預ける。
「そんなに具体的なら自分で書いてみたらいいじゃん」
「で、でも……」
「夢みたいなことも、続けていけば案外叶うもんだよ」
なぜだか説得力のあったその言葉に、背中を押された気がして、それから書いた詩はお姉ちゃんの一声でまさか本になった。
最初のコメントを投稿しよう!