コールドマネー

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コールドマネー

2028年冬間東志郎はコールドスリープの中で 眠っていた。 会社の総資産2兆3000億円。 保険に作った子会社多数。 これで会社は100年は安泰(あんたい)だろう。 ようやく未来旅行の準備は整った。 会社が独自に開発した人を冷凍冬眠させる機械で、 50年後の未来に冬眠につく。 50年後わが社のほとんど社員は退職してるだろうが、一部の社員は残っている筈だ。 保険としてNo.2の社員を一緒に眠りにつかせ 先に目覚めさせ会社を管理させる。 No.2は20年後に目覚め私はさらにその30年後に。 先に目覚めたNo.2が私が目覚めるまで会社をまとめ、私が目覚めた時に会社を円滑(えんかつ)に運用するためだ。 そして私は眠りについた。 50年後の未来に。 いや、そのはずだった。 私が目覚めた時、 その風景は私の予想を上回っていた。 ただしそれは、良い方にではなく悪い方に。 発展した見たことのない最新機器に彩られた室内とまではいかなくても、眠りについた当時の風景は私の目の前にはなかった。 例えるなら誇りをかぶた開かずの金庫、 それがピタリの室内である。 目の前には清掃員かと見違(たが)えそうになる 風貌(ふうぼう)の老人が1人。 社員証をつけてるので社員なのだろうが。 「会長お目覚めになられましたか」 その男は気がねなく私に話しかけてくる。 私を知らない社員なのだから仕方ない。 「No.2はどうした?」 この場にNo.2がいないのを不審(ふしん)に思う。 なにか緊急のトラブルでもあったか? それにこの現状。 泥を被ったような私の寝ていた コールドスリープのカプセル。 聞きたい事は山ほどある。 「No.2と言われますと?」 「森田だ。森田敬三。 私の後を任せていた(はず)だが?」 まさか事件でも起こして解任になったのか? 「ああっ二代目の森田社長ですか」 森田社長? 私は森田を社長にするなど許していない。 あいつ勝手なことを! それで私に顔を見させれないのか。 「森田をすぐにここに呼び出せ」 「そう言われましても、 森田社長はもうお亡くなりになられています」 亡くなった!? 事態が把握できない。 室内を見回し状況を整理する。 それで管理がずさんになってこの有り様なのか? 「仕方ない君に会社の状況を説明してもらおう。 私が眠っている間になにがあった?」 「はい1から説明します。 ところで会長は今何年だと思っていますか?」 なにもしかして今は50年後ではないのか? 「今は私が冬眠についてから50年後。 2078年ではないのか?」 「はい違います。 西暦で言えば2578年。 正確には星の暦と書いて星暦300年です。 つまり今は、 あなたが冬眠についてから500年後の未来です」 なぜだ!? そんな事があり得るのか? 「説明を続けましょうか?」 「いや少し待て、状況を整理する」 確か我が社の開発したコールドスリープは 冬眠システム。冬眠であって冷凍保存ではない。 生命活動は限りなく0に近いが、 仮死状態であって止まってはいない。 その状態で果たして500年も生きていられるのか?歳を取らずにいられるのか? そう思いいたってはっと老人を見る。 老人はその反応を予測していたように 黙って私に鏡を差し出した。 鏡を見て安堵(あんど)する。 歳はとっていない。 それどころか若返ったようにさえ見える。 だが何故(なぜ)だ? 何故500年も私は生きている? 私は老人を見つめ説明を求めた。 「説明してくれ」 「はい今は会長からすれば500年後の未来」 「私は何故(なぜ)生きている。 いやコールドスリープ中歳もとらずに 500年も生きてこられた?」 「その質問は厳密(げんみつ)には間違(まちが)っています。 会長は生きていません。 いやそれも違う、会長はコールドスリープ中 生きてはいなかった。 死んでいました」 「どう言うことだ? そもそも何故50年後に私を目覚めさせなかった?」 「会長が目覚める30年前に、 先に森田社長が目覚められたのはご存じですね。 その森田社長が色々と理由をつけて会長が目覚めるのを先延ばししました。 完全に会長を知る人物がいなくなった時点で会長を目覚めさせる案は凍結。 会長は300年後に目覚めると言う シンボルになったのです。 当然我が社の冬眠システムでは300年ももたないので会長は冷凍保存。 当時の技術では細胞は分子レベルでバラバラに、 事実上復元は不可能、会長は死にました。 表向きは眠っていると体裁(ていさい)で」 「そんな事を信じるやつがいるのか?」 「本当に生き返らないのはみんな知っていますよ だから表向きのシンボルなのです。 未来に目覚める会長と言うシンボル。 道化の英雄(ドンキホーテ)としてのシンボル」 なぜそんな事に? そうならないように弁護士に管理を任せた筈だ。 「私の冬眠中の管理を任せた弁護士はどうした?」 「弁護士は会長が目覚める予定の50年後が近づいた年に不審死(ふしんし)しました。 そして代わりの弁護士が決まるまで、 会長の解凍は延期(えんき)。 そして現在に至るわけです」 殺したのか。 会社を乗っ取るために私を。 「だがそれなら何故(なぜ)だ? 何故いま私は生きている?」 「最近になって壊れた分子構造を解析して 復元する技術が確立され 死んでいた会長は生き返ったのです。 まさに奇跡の復活。 神話のキリストの再来だと揶揄(やゆ)されています」 私は冷や汗をかきながら考えた。 ともかくプラスに考えれば、 500年後の未来まで旅行が出来たのだ。 片道切符ではあるが。 そんな経験が出来る人間はいない。 お得だと考えればいい。 「それだは会社を案内しましょ」 老人はそういって木の扉を開き、 私についてくるよう(うなづ)いた。
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