『月華国の章・月照の杞憂』・半刻前

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「どうしよう……。ど……どうしよ……。げっと!月兎(げっと)!どこ!?月兎どこー!?」 寝台の上に広げられた衣服の数々。 それらを放り投げながら、小さな生物を探す。 「月兎!あ……、もうダメだ……あの方が来ちゃう……」 床にガックリと膝をつき項垂れたまま、とうとう彼は動かなくなってしまった。 「はぁ、もう。なんでいつも同じ事を繰り返すのかな」 寝台の上にも床にも、自分で引っ張り出した衣服が山となって積み重なっている。 深紅の寝台の天蓋からぴょこんと飛び降りた月華国の伝達師は、項垂れる主の前へと立ちはだかった。 「月兎!どこ行ってたの!?もう、もうダメだよ……今度こそあの方に呆れられる。今度こそ、やっぱりお前じゃダメだって言われるに決まってるよ!」 何度となく繰り返されるこの言葉を、彼は毎回本心で言うからたちが悪い。 「月照(げっしょう)、とにかく服を着なきゃ。君はそのままであの方の前に出るつもりなの?それこそ失礼すぎるでしょ」 白い襦袢──下着のようなもの──は、王族のみが身につけられる一級品の生地で、柔らかく艶やかでそれだけでも充分なくらい高価なものではあった。
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