『月華国の章・月照の杞憂』・半刻前

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「ぎゃあ!月兎!そんな!こんな姿であの方の御前に出るなんてとんでもない!それこそ呆れられちゃうよ!!」 前をギュッと合わせて、襦袢と違わぬ白い絹肌をサッと紅く染める。 「それならちゃんと服を着て顔も洗わなきゃ。あぁ、髪の毛もボッサボサ。ほら、そこに掛けてあるのを着れば良いじゃないか」 示す方には、衣桁に掛けられた立派な礼服。 この国の最高位である王に相応しく最高級の絹を使ってあり、さりげなくも複雑な刺繍が随所にあしらわれていた。 「こ、これはダメだよ!月兎!だって、これはあの方と初めて謁見したときにあの方が褒めて下さった物だから」 一国の王であるというのに、真っ赤に染まった顔でモジモジと身を捩る。 それにまた月兎は呆れたようにため息をついた。 「褒めてもらえた服ならなおのこと良いじゃない。さあ、早く着替えて」 そろそろ本気で時間が迫ってきた。 時計を確認した月兎は、謁見の間へと移動すべく身を翻した。 「褒めていただいた服だからこそ着られないじゃないか!『あ、こいつちょっと褒められたからってまた同じ服着てる』って、『調子のってんな』何て思われたらもう立ち上がれない!」 今日という今日こそは、本当に時間に間に合わないかもしれない。 月兎は口元を引き攣らせる。 謁見の時間までは、あと半刻。
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