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「炎獅!火照様はどこにいらっしゃるか!」
野太い将軍の声が、火炎国伝達師の眠りを妨げる。
農家の出ながらも、気性荒い民が住まう火炎国の中、己の力一本で将軍まで上り詰めた男だ。
その見事な体躯から出る声は、数十メートル先にも響き渡るほどであった。
「知らん」
城をすっぽりと隠してしまうほど高い城壁から城下町を見下ろしながら、寝そべって投げ出した前足に顎を乗せる。
炎のような真っ赤な鬣が風に靡くと、炎獅はまた静かに瞼を閉じた。
「炎獅!そなたはあの方の伝達師であろう !そろそろあの方がおいでになる時間ではないか!」
誰もが恐れる炎そのもののような獅子にも、将軍がたじろぐことはない。
そして、あの方の伝達師だからこそ、その時間が迫っているのは炎獅には充分すぎるほど分かっていた。
「火照がどこにいるか、分かっているのだろう」
先程から、城下町を将軍の手下がちょろちょろと駆け回っている。
火照が現れそうな所に目星を付け、分担して探し回っているのだろう。
「先週は町の武道場。先々週は闘技場。そのまた前は鍛錬場。果たして今日は……武器製作所、いや、間謀戦略所か」
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