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遮光カーテンの隙間から差し込む陽光が、いたたまれない現実を突きつけている気がした。壁にかけてあるアナログ時計は、午前九時を示している。
身を起こした私は、昨夜から狭くなったセミダブルのベッドの上で伸びをすることも忘れ、カーテンの向こうにある街並みを思い浮かべていた。
痩せ体型のくせにシングルベッドだと転げ落ちてしまうほど寝相が悪い私には、このゆったりとしたサイズがちょうどよかった。寝室は少し狭くなってしまうけれど、どうせこのマンションには眠るためにしか帰ってこないのだ。部屋の広さより、睡眠の質を取ることにためらいはなかった。だが、結局その質も彼の来訪により随分と落ちてしまったようだ。
ベッドの隅に子どものように丸まって眠る和樹は、人形のように静かだった。いつもは真っすぐな黒髪が、気まぐれに額やベッドに流れている。時計の秒針のように規則的な彼の寝息はやわらかく、三年前の私なら愛おしさでほほ笑んでいたことだろう。しかし、今の私は睡眠不足と心臓をかきむしるような焦りのせいで、ため息をつくことさえできなかった。
彼が眠っている間に、寝間着から普段着用の薄手のワンピースに着替える。白地に紺のストライプがプリントされたそれは、つい先日、新しく開店したアパレルショップで見つけたものだった。派手過ぎず、地味すぎず、ほどよい色合いのこの服は、なにを着るか迷った日にちょうどよいものだった。
音をできるだけたてないように歩き、寝室を出る。顔を洗い、最低限の保湿を顔全体に施す。
ブラシで乱れた髪をとかしながら、寝室にいる和樹の存在を思い出し、メイクをするかどうかしばらく迷う。仕事が休みの時は基本的にメイクをしない。それに、彼は私がノーメイクでも気にしないだろう。でも、今の私と彼の関係は慣れ親しんだ恋人ではないのだ。
種類が多いとは言えない化粧品から目を上げ、鏡をもう一度見る。空虚な目をした女が映っていた。寝不足でうっすらとついたくまが、青白い頬と相まって死人のようだ。
しばらくの迷いの後、私は化粧下地を手に取った。
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