怖がりなひと

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 いつから、自分が人より劣等感の強い人間だという自覚を持ったのかはわからない。私は人を大切にする方法も、自分を大切にする方法も知らずに育っていた。  ただ、酔うと暴れる父と、外で浮気を繰り返す母に捨てられないように必死だったことは確かだった。  アクセントに塗られたチークを指先でなぞる。先ほどまで映っていた青ざめた女はもういない。  化粧品は女に命を飾る道具なのだと、母は時折言っていた。  しかし、私のように外装は美しくても、中身の入っていない箱に価値はあるのだろうか。美しさは人形も持っている。私と人形の違いはなんだろうか。
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