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「そのワンピース、よく似合ってるよ」
メイクを終えた私を出迎えたのは、その一言だった。私に声をかける直前の和樹は、立ったままスマホを見ていた。目の色が真剣さに染まっていて、おそらく仕事に関係した内容だったのだろう。三年前、まだ見習いだった時には見られなかったその瞳を直視できなかった。
彼は仕事に妥協はしても甘えはしなかった。まだ私も彼もバイトだった頃、彼はデザイナーとしての地位を確立させるために、企業やコンテストの間を駆け回っていた。その姿はひたむき過ぎて、周りからは幼稚に見られたかもしれない。でも、その積極性と丁寧さは今確かに実を結びつつある。
その勢いがあともう少し、恋愛にも注がれていれば――なんていう願いは、数えきれないほどした。
私の心境を知らない和樹は、恋を初めて知った少年のようにうぶな笑顔を浮かべている。
「美由って昔から服もインテリアのセンスもいいよね。すごく素敵だと思う」
「……ありがとう」
「もう出かけるの?」
「うん。帰るのが遅くなるといけないし」
嘘だった。彼と同じ空間にいるのが苦しいだけなのに、それも伝えることができない。
寝室で鞄や財布を用意しながら、私は疲労と期待でいっぱいだった。
前者を感じるのはわかる。だが、後者の感情はいったいどういうことだろう。私は彼になにを期待しているというのか。彼がまた本音をつぶやいてくれるんじゃないかと思っているのだろうか。笑えないくらい馬鹿ばかしい。
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