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暴漢に襲われたかのような反応をする私を、和樹は離さなかった。でも腕が震えている。私の知らない彼がいる。
「なん、で……」
なにもかもが限界だった。どうして、今になって引きとめるんだ。私をここに縫いつけて、なにをしたいんだ。
忘れていたはずの涙が、一気に両目からあふれ出し、醜い嗚咽が喉からもれ出す。視界がぬれ、世界が歪む。軽めに塗ったマスカラに涙が集まり、コットンシャツに吸い込まれていった。目頭から後頭部に熱が駆け巡って、卒倒しそうだ。
「ごめん、本当にごめん。俺、どうすれば……どうしたら、美由に嫌われなくて済む?」
どこで間違えてしまったんだろう。なにを間違えてしまったんだろう。なにもかもがわからない。
目を閉じて、彼の背に手を回す。指先が震えて、ひどく冷たかった。
「美由。お願い、行かないで」
誰でもいい。私に彼の愛し方を教えてくれないか。
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