怖がりなひと

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 初めてのバイトで初めて和樹に出会った時から、私の心は彼に翻弄され続けていた。私より二月ほど早くそこに勤めていた彼は、大学三年生にもなるのに世間知らずな私を笑うことも見下すこともしなかった。それどころか、ひとつひとつの作業を親身になって手伝い、教えてくれた。 「ファッションデザイナーになりたいんだ」。生活のためにバイトをしながら、真剣な瞳で夢を語る和樹に惹かれるのはそう難しいことではなかった。  人の好い笑みで誰にだって分け隔てなく接する和樹は、老若男女問わず慕われていて、今までの人生を人の陰で生きていた私にはあまりにもまぶしい存在だった。  だから、和樹から交際の申し出を受けた時、彼がどういう人間であるかも考えずに、それを承諾してしまった。彼に愛されているという事実が、私に価値を吹き込んでくれたように錯覚したのだ。とても、幼稚な話だ。
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