怖がりなひと

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 顔色の悪さを隠せるだけのベースメイクを終えた私は、キッチンで二人分の朝食を作り始めた。といっても、昨日は残業で買い物はできなかったし、ひとり暮らしでは食品の備蓄もたいしてない。食に興味がなければなおのこと。  とりあえず、余っていた八枚切りの食パンを三枚オーブントースターに入れ、タイマーをセットする。友人から引っ越し祝いにもらったそれは、普段ひとりで使うには大きすぎたが、今日だけはちょうどいいサイズだった。 「おはよう……久しぶりにこんなに寝たよ」  二人分の目玉焼きを焼いていると、寝ぐせをつけたまま和樹が出てきた。藍色のコットンシャツにもしわがついている。首に手を当て、頭を左右にゆっくりと動かしていた。全身が凝り固まっているようだ。当然だろう。大の男が、あんなベッドの隅で丸まっていたら普通は熟睡できない。それでも、こんな時間まで眠りこけるとは、よほど疲れがたまっていたのだろうか。 「洗面所、そこだっけ。借りていい?」 「……うん」  なんとなく和樹の方を見られなかったので、意味もなくフライパンに視線を固定させる。もう火は通っているはずなのに、卵を皿へ移すタイミングを失っていた。黄身は半熟の方が好きだが、ここまで置いていたらぱさぱさに固まっているだろう。
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