怖がりなひと

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「焦げちゃうよ」  ふと横から手が伸びてきて、コンロの火を消した。前髪がぬれている和樹は、卵を二つ無駄にしようとしていた私を咎めずに、無言で皿へと移し替えた。  オーブントースターに入れっぱなしだった三枚の食パンを取り出した彼は、嬉しさと困惑の混じった笑みを浮かべた。 「俺の分まで作ってくれてたんだ。ありがとう」 「……私ひとりで食べるとは思わなかったの?」 「だって、美由はこんなに食べられないじゃん。六枚切りの食パンだって一枚食べるのがやっとだったのにさ」 「……」 「あと、俺がどんなに疲れてても、十時までには起きることも覚えていてくれたんでしょ?」  その言葉に軽く動揺してしまう。私が少食だということを彼は覚えていた。私の体が彼の起床時間を覚えていたように。別れてから三年も経つのに、彼の中の私は死んでいないようだった。  動揺を悟られたくなくて、冷蔵庫から苺ジャムとケチャップを取り出す。  初めてこの部屋を訪れた和樹は、フォークとマグカップを探し出すのに苦労しているようだった。私が小さな声で場所を教えると、はにかみながら二人分をテーブルにそろえていく。  コーヒーを入れるのが面倒になった私は、冷たい牛乳を二つのマグカップに注いだ。ふと、和樹はあまり牛乳が好きではなかったことを思い出す。先に着席していた彼をそっと盗み見るが、自分に牛乳が出されたことを気にしている様子はなかった。
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