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和樹のはっきりとした『いただきます』と、私のか細い『いただきます』が重なり合って、遅めの朝食が始まった。
目玉焼きはやっぱり焼きすぎで、黄身もフライパンに直接触れていた白身もガチガチに固まっていた。でも、和樹も私も文句を言わなかった。
「いい天気だね」
和樹が不意に言った。
「美由は、今日仕事休みなんだよね。どこか出かける用事とかある?」
「……図書館か買い物に行こうと思ってるよ」
「そっか」
しばらくの沈黙の後、和樹はフォークを置き、曖昧にほほ笑んだ。雨にぬれた子犬のような瞳が、私を真っすぐにとらえる。
「あのさ、俺も一緒に行っていい、かな」
控えめなお願いだった。問いかけに答えず、無言のままの私に、和樹は長いまつげを伏せて「ごめん」と小さくつぶやいた。
いつだってそう。彼は私に無理を強いることは絶対になかった。
かつて恋人同士だった時でさえ、私にかかわるすべてのことを彼は慈しんでくれた。他の恋人たちが当たり前のようにしている行為のひとつひとつを、彼は押し通すことはしなくて、どんな時も私のペースに合わせてくれた。
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