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「紙芝居ですか?動画じゃなくて?」 「だから、ゴミの減量とリサイクルの啓発用の紙芝居。  動画じゃないのは、子どもの前で人が演じる、極めてハイタッチなコミュニケーションを目指しているからで…」 「ハイタッチって、ボウリングでストライクが出た時、両手でやる、あれですか?それとも営業用語のハイタッチ・セールス?」 「ハイテクに対するハイタッチ。極めて高度に人間的なふれあい」 「ハイテク?」 「ハイ・テクノロジー、ま、昔の言葉だな」 「なぜ、そんな古い言葉知ってるんです?」 「俺たちは言葉で仕事をしてるから、言葉は知ってるほど仕事はやりやすい。それに、発注側の意思決定者は年長者が多いから、そのひとたちの知ってる言葉で話すほうがスムースに進むことも多い」 「大工と話すときは大工の言葉で?」 「まあ、それだな。でも限界はあるけどね。  何年か前、昔からやってる蒸籠メーカーのカタログ作りで、打ち合わせにいった時の話。受付にいたのは七十を越えたおばあさんで、社長に取次を頼んだら、ルーペで名刺をみて、聞くんだ。  コピーライターとはなにかって。  だからCMとかチラシの文案を考えて、編集してって、うんざりするくらい説明してようやく、わかった、と言ってくれたときは正直ホッとした。  そのとき、おばあさんが社内放送でなんて言ったと思う?」 「さあ」 「社長、看板屋さんが来たよー」  ふたりで声を合わせて大きく笑った。  りんちゃんが事務所の向こうで、勢いよく振り向いた。  奇跡だ!ネコとネズミが笑ってる。  大きくまばたきをしていた。 「で、紙芝居なんだが」 「ケーハツ?ケーモー?キョーイク?」 「二案出すのよ。わたしがストーリーを構成するから、りんちゃんがラフ描いて、プレゼン。京子さんは今月忙しいから、イラストは外注する」 「どんなストーリー?」 「まず一案目。先方の意向に沿ったお話なんだけどね。  ゴミから生まれた怪獣が街中を破壊してまわる。そこで、子どもたちがゴミを集めて、リサイクルして、怪獣のエネルギー源を奪って、怪獣退治。めでたし、めでたし。  だから、みんなでゴミを減らして、リサイクルを推進しよう!みたいな」  美遥は、なんとかため息をおしとどめた。 「それってさ、問題意識持たないやつだけが考えつく、単純なお説教話じゃない?もっと、感覚に訴える話じゃなきゃケーモーにならないでしょ」 「よかった、りんちゃんがまともな感覚の持ち主で」 「やる気なさそうに。  怪獣出すなら、正義のヒーロー出してさ、ガンガン怪獣叩きのめす話にしたほうがいいよ。怪獣が血ヘドはいて、ボロボロに打ちのめされて、命乞してもヒーローは攻撃止めなくて、腕もいで、足もいで、血みどろで、生々しく眼をえぐられて苦しむ怪獣の表情アップにして。怪獣に同情したくなるような話。それなら感覚に訴えると思うけど」 「それ、採用されると思う?」 「ムリムリ。税金使うんでしょ。  で、もうひとつは?」  ゴミに埋もれ、枯渇した世界に生きる少女ミーカと少年コー。  たくさんのリサイクル・マシンが懸命に世界を再生させようとするが、リサイクルした資源は、略奪者が浪費して、新たなゴミを生み出す。  ミーカは植物を育て、生まれつき身体が弱いコーの世話をする。コーは略奪者に破壊されたリサイクル・マシンを修理する。  ようやく、ミーカの育てる小さな樹に果実が実り、その実を食べて、少しずつコーは元気になる。  しかし、樹は略奪者に見つかり、切り倒され、焼かれ、果実は奪われてしまう。  泣きじゃくるミーカに、コーは、略奪の間ずっと握りしめていた手を開き、果実の種子を見せる。  希望は奪えない。 「推しはこっちだな」りんちゃんが言った。「採用されると思う?」 「どうかな、ケーモーで押し切れる、つよさがないかな」 「二案目を推そう。あたしはこっちに賭ける」 「うん。だけど怪獣案も手は抜かない」  りんちゃんが、美遥をじっと見つめた。 「怪獣もさ、望んで怪獣に生まれたわけじゃないだろね」  りんちゃんがゆっくり紅茶を飲み干した。 「あたしたち、なにやってんだろ」  やっぱり気が進まないか。 「こっちは理想を託すことしかできないのよ」 「希望は奪えない?」 「それがあるだけ、わたしたちは幸運。でしょ?」  
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