黄昏夫婦

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「いいじゃん。まだあるだけ。うちなんてもう、とうにないよ」  隣を歩く聖子が、まるで珍しいものでも見るかのように、頭のてっぺんから足の先まで舐め回すように私を眺めた。  ファミリーレストランでのパート帰り。私はいつものように聖子と並んで駐車場までの道のりを歩いていた。  聖子は、私より一週間だけ先輩だ。  同い年ということもあり、仕事を教えてもらううちに自然と仲良くなった。  今やもう、夫婦生活のことまで気軽に話せる関係だ。 「ないって、どれくらい?」  そんな気の置けない仕事仲間に、私は遠慮なく質問をぶつける。 「んー。あの子が中学入ってからだから……」  中空を睨み、聖子は指折り数え始めた。  化粧っ気のない頬に、薄っすらとシミが広がっている。その横顔をぼんやり眺めていると、ようやく聖子が視線を戻した。 「五年くらい?」 「五年!?」 「そうよぉ。だって、年頃の子がいると気ぃ遣うじゃん? 声とか」 「ああ……」  聖子は三人の子持ちだ。上から高二、中三、小五だ。 「それにさ、三人も子どもいると、それどころじゃないんだよね。毎日が戦争よ。子どもの宿題付き合って、家事やっつけて、よしやっと寝れる! って時に、そんな気起きると思う?」 「確かに……」  私は気の抜けた返事を返した。
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