黄昏夫婦

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 うちには子どもがいない。  長く苦しい不妊治療を続けた結果、心身ともに衰弱し、夫婦関係に大きな溝が生まれた。  結局私たちは、お互いの為を想い、苦しみから解放される道を選んだ。  それでも定期的にセックスはしている。  万が一の確率に賭けてみたいから?  それとも、変わらぬ愛を確認したいから?  いや、もしかすると、夫婦関係を保つための単なる儀式に過ぎないのかも……。 「ペースは?」  聖子の言葉で我にかえる。 「なにが?」 「だから、どのくらいのペースでヤってんのかって訊いてんの」  少しイラついた声で、聖子が訊き直す。  ごめんごめん、と右手を立てたあと、「どのくらい……」今度は私が宙を睨んだ。 「うーん……。月一か、二ヶ月に一回くらい?」  私は素直にそう答えた。 「へぇ。ラブラブじゃん」  ニヤつきながら、聖子が肘で私を小突く。「いてっ」と大袈裟によろけながら、「だって……」と私は口を尖らせ下を向いた。  前方に、ピンポン玉大の小石がある。  いじけた子どもみたいにそれをつま先で蹴ると、小石は不格好に転がっていき、縁石に弾かれ動きを止めた。
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