黄昏夫婦

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「一か月以上ないとセックスレスって、何かで読んだことあるし……」 「はぁ? そんなん言ったらうちの夫婦終わってんじゃん」  五年だよ? と聖子は右手をパーにして顔の前に突き出した。 「聖子んちはいいよ。子どもいるし。でもうちは……」 「関係ないよ」  先細りになる私の声に、力強い聖子のそれが被さる。 「みんなそんなもんなんじゃないの? もう若くないんだし」 「そうかなぁ?」 「そうだよ。そりゃあいつまでも新婚気分でいられたらいいんだろうけど……」  空を見上げ眩しそうに目を細めると、「理想と現実は違うよ」聖子は、どこか寂しそうに溜息をついた。  聖子と別れて車に乗り込む。  バックミラーに映した自分の顔が、いつにも増してくたびれていた。 「あ。白髪」  一つに束ねられた髪のこめかみのあたりに、所々白い線が見える。 「そろそろ染めなきゃね」  私はバックミラーを戻すと、ギアをドライブに入れた。
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