黄昏夫婦

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 夕食の支度をしていると、夫からメッセージが入った。 『後輩と一杯やってから帰るので夕飯はいりません』  鍋の中では野菜たっぷりのポトフが、ぐつぐつと美味しそうな音を立てている。  夫の大好物。  いつもは安売りのウインナーだが、今日は少し高めの厚切りベーコンにした。 「なんだ……」  私は投げやりに呟くと、オッケーサインをしているウサギのスタンプを送った。  メッセージの返信がスタンプだけになったのは、いつからだろうか?  夕食を作る気がすっかり失せてしまった私は、とりあえずポトフを完成させ、昨日の残り物で一人寂しく食事を済ませた。  テレビから、お笑い芸人のトークとそれを拾う司会者の、テンポの良いやりとりが流れてくる。 「何が面白いんだか……」  溜息まじりに独りごち、私は食器を片付けた。 「お風呂入る前に、髪染めちゃお」  私は戸棚から新聞紙を取り出すと、たった今片付けたばかりのダイニングテーブル一面に、それを丁寧に敷き詰めた。  クリーム状の薬剤をよく混ぜ合わせ、鏡を見ながら慎重に塗っていく。  初めての時は緊張してうまく塗れなかった私も、三回目となれば手慣れたものだ。  前回よりも早く塗り終え鏡の中をチェックしていると、玄関ドアの開く音がした。
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