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黄昏夫婦
「今日も遅いの?」
洗面所で髪型を整える夫の背に、私は声をかける。
毎朝のルーティン。
「そうだな。今ちょっと仕事が立て込んでて……」
上目遣いにジェルを揉み込みながら、上の空で夫が答えた。
目覚めのキスをしなくなったのは、いつからだろうか?
「ねぇ。次はいつにする?」
少しだけ、甘い声で訊いてみる。
夫婦だけの合言葉。
「ああ……」
来週、と呟いてから、夫の視線が宙を彷徨う。
暫くしたのち、虚な瞳が、鏡越しに私を捉えた。
「再来週の土曜日ならいいよ」
「わかった」
後ろ髪のハネを直してやると、私は僅かに口角を上げた。
セックスがスケジュールに組み込まれたのは、いつからだろうか?
行ってきますとドアを開ける夫の背中に、行ってらっしゃいと私は声をかけた。
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