第10話 花火大会

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第10話 花火大会

大きく上がった花火をスマホで撮影する。 「タオくん、すごい綺麗に撮れてるね」 「うん、夜景モードがついてるスマホだから」 「ほ~今はスマホでも凄い機能がついてるんだな」 「そういえば、望美ちゃんは花火大会見に行くって言ってたなぁ」 はるか先生がポツリとつぶやいた。 「この辺りでは割とおっきな花火大会なんだろ、そりゃ高校生にもなりゃ、友達とかデートとかで行くんじゃね?」 「そうね、みんな楽しんでるかなぁ」 「思い出すな、花火大会…」 「圭吾…」 はるか先生がちょっと睨む。 まずいと思ったのか、圭吾さんが話を変える。 「あの、本選で会ったタケルくんも花火大会行ってるんじゃない?」 「何も聞いてないけど、行ってるかもね」 圭吾さん…もうタケルくんと会ってるんだ。 さっきの圭吾さんの『振られちゃったし』発言から、モヤモヤしっぱなし… 「結構イケメンだったし、彼女と行ってるかもしんねーな。ファンらしき女の子たちがホールをウロウロしてたし」 「え?そうなの?」 「気付いてなかったの?お前、本当にそういうのニブイな~」 「うるさいわね」 「…それこそ、彼、似合うんじゃないの?ノクターン。ショパンのとかさ」 「うん、来年あたり選曲するつもり」 「だよな、あれは弾けるよな、難易度の高いノクターンでも弾ける」 圭吾さんは少し酔ってきたのだろうか、何か意味ありげなことを言って、先生に近づこうとしている気がする。 「僕は今年、先生と花火が見れてすっごいラッキー」 僕が先生を見て笑うと、先生も嬉しそうに笑ってくれる。 「そうだよね、タオくんとレッスンができて花火も一緒に見られるなんて思ってなかったよね」 全国大会進出が決まってもちろん嬉しいけど、はるか先生のレッスンが受けられてこんな時間が持てたのが、一番の幸せかもしれない。 「記念に、さっきの写真、インスタにあげておこう」 「何?タオくん、インスタしてるの?」 圭吾さんが聞いてくる。 「圭吾、タオくんはピアニストYouTuberとしても結構有名になりつつあるのよ」 「あ、でも今は全国大会に集中するため、動画アップは止めていて」 そうなのだ、普段、YouTubeのための動画を作る時間全てを全国大会の練習にかけている。 「へぇ~!後でチェックしとこ。なんかピアノ弾きたくなってきたな~」 「そうね、弾く?」 「弾くか!」 そういって、2人はレッスン室の方に入っていく。 「え?!」 「こういうこと、よくあるのよね、あの2人…」 由紀子さんは特に驚くこともなく、花火を見ながらビールを飲み続ける。 僕は窓越しに2人が連弾を始めるのを見届けることになった。 楽譜を見ながらだけど、楽しそうに演奏している。途中ミスがあったりしながらも、キャーキャー言いながら続けていくその様は、まさにピアニストらしくもあった。 「あの2人、大学時代はピアノデュオを組んでいたのよ、息が合ってるでしょ?」 「はい…」 「あんなに息が合ってるのに、はるかちゃんが選んだのは圭ちゃんじゃなかった…」 ド――ン、ド――ーン、 花火が連続して上がっていく。 クライマックスなのだろうか。 僕の知らないはるか先生。 楽しそうに圭吾さんとピアノを弾いている。 さっきのレッスンまで、先生を独り占めできていると優越感に浸っていたのに…。 僕は必ずノクターンを自分の演奏に仕上げようと決意した。
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