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第11話 スポットライトの下へ
全国大会のホールは、地元のホールほど広くはないけど、上質で洗練されていていつも緊張する。
その場に来られたことが既にご褒美みたいなものだけど、僕は今回の全国大会に賭けていた。
お盆休みから今まで、先生は僕と妹の美央のレッスンしかしていない。
通常レッスンは休講になっているからだ。
春休み、先生が弾いたショパンのノクターンがずっと気になっていた。
それはそれは美しく情緒あふれるメロディー。繊細で、細いようで、何か大きなものに飲み込まれるようなその演奏は、タケルくんが弾くことを想像して演奏されたものだった。
今年の課題曲でチャイコフスキーのノクターンを見つけた時、僕はこれを弾くしかないと思った。
確かに、僕にはまだショパンのノクターンの難易度の高い曲を演奏できるほどの表現力はない。
でも、せめてタケルくんを考え演奏しているはるか先生を僕の元に取り戻すためには、このノクターンに取り組むしかないと思ったんだ。
本当は、この曲を演奏する動画を撮ってYouTubeにあげて聴いてもらうつもりだった。
だけど、そんな僕に運よく色々なことが味方した。
全国大会に進むことが決まり、自宅に戻りはるか先生のレッスンが受けられるようになったこと、そして東京の全国大会に、はるか先生が引率で着いてきてくれるということ。
なにより、花火大会の日に先生が言ってくれた言葉が、僕を強くした。
『タオくん、舞台に経つその瞬間まで絶対に諦めちゃダメ。先生もタオくんと一緒に悩みぬいくから、諦めないでね』
僕は悩みに悩んだ、僕だけのノクターンを仕上げてきた。
そして、先生がいるこの舞台で聴いてもらう。
すべてを賭けて演奏しよう。
舞台袖から見える、あのグランドピアノ。
すべてを賭ける!
僕は、スポットライトに照らされた舞台へ一歩、足を踏み出した。
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