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第7話 自分をプロデュース
僕は、演奏動画をYoutubeにアップしてピアノ系ユーチューバーを目指すことにした。
一番の目的は、はるか先生に僕の演奏を聴いてもらうこと。
この方法なら、物理的に離れていたとしても、定期的に僕の演奏を聴いてもらうことが可能だ。
次に、少しずつファンを増やして、先生が認めてくれるピアニストになること。
これまでは大きな海外のコンクールで入賞したらピアニストになれるかな、くらいに思っていたけど、今はYoutubeにアップすれば海外の人も聴いてくれたりする。
特にクラシックは言語が関係ないから、海外の有名なピアニストの目に留まるチャンスもゼロではない。
例えば、僕が社会人になっても、ピアノ演奏を発表する場があれば、僕はずっとピアノを弾いていられる。就職しても、ピアノと離れることなく。
将来がどうなるかなんて分からないけど、今、乗れるものに乗っておいて損はないはず。
何より、そうやってピアノ系ユーチューバーとして知られれば、はるか先生との縁が切れることはないだろう。
先生が褒めてくれたバルトークの演奏を何度も撮り直して、一番気に入った演奏を1つめの動画としてアップしてみた。
チャンネル登録がゼロの状態だから、とにかく友人知人にLINEを送りまくって、まずは視聴回数を稼ごう。
もちろん、最初ははるか先生にLINEをする。
「はるか先生、Youtubeチャンネルを開設しました。僕の演奏、これからもたくさん聴いてね」
送った時間はおそらくレッスン中なのだろう。まったく既読になる気配がないため、その間にLINE登録している人ほとんどに、Youtubeチャンネル開設のお知らせを送る。
もちろんタケルくんにも送っておく。
Youtubeコメントが友人からたくさん書かれ始めて、コメント返しに追われていると、タケルくんからLINEが入った。
「いい演奏だね、タオくんらしい。バルトークがこんなにバリっと弾けると思ってなかった」
そっか。春休みにタケル君に聴かせた時には、ここまでバリッと弾けてなかったってことだな。それならはるか先生も、今回の動画の演奏に納得してくれるかも。
続けてタケルくんからLINE
「早速、はるか先生からコメント来てたね」
「え?マジ?見てない!チェックする!!」
え?!本当に?!なかなか既読にならないから、まだ聴いてもらえていないと思っていた。
慌ててYoutubeを確認してコメントを下の方までスクロールすると『Haruka』が目に入った。
きっと、はるか先生だ!
「Taoくんの演奏が動画でもいいから聴けるなんて嬉しい!新曲も楽しみにしています」
心臓がポンと跳ねるように感じて、それからドキドキが止まらなかった。
この口調。はるか先生だ!先生からコメントが来た!
僕の動画、聴いてくれたんだ!!
嬉しい!嬉しい!!
どうしよう、なんて返事したらいいだろうか?
僕はスマホを持ったまま、寮の部屋を右往左往した。
それだけでは落ち着かず、スマホを両手で持ったままベットに身を放り投げ、それでも画面から目が離せなかった。
わぁ、どうしよう。
先生って書くと、身元がバレたり色々面倒になるかもしれないし。
あれこれ書くのも、今後を考えると良くないし。でも、嬉しい気持ちは伝えたいし。
なんて返事したらいいかなぁ。そもそも、Youtubeチャンネルを始めようと思ったのも、はるか先生に演奏を聴いてもらいたいから。
新曲も楽しみ、なんて書いてくれてる。きっと、これからも聴いてくれるってことだよね。
どうしよう、どうしよう。
舞い上がって浮かれた状態でコメント返しをしたら、失言してしまうかも。一度落ち着こう。
落ち着いて、文章をよく考えて…。
あれこれ、ノートにコメントを書き出してみた。いくつかの候補から、これなら違和感なく、先生に気持ちを伝えられるかも、というものを選んで、スマホに打っていく。
注意深く何回か読み直して、よし!とボタンを押した。
時計を見てみると、30分くらいどうコメントを書こうか迷っていたようだ。
でも、それくらいの時間をかけて書いてよかったと思う。
なにしろ、Youtuber TaoとHarukaさんの第1歩になるかもしれないのだから。
これが僕の、今の精一杯の気持ち。
「聴いてくれてありがとう。Harukaさんのために、これからもたくさん演奏をアップします」
第一部 完
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