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「もうすぐ受験生でしょう。どうするの?大学はどこに行くの?そろそろ本当に有名で偏差値の高いところに行かないと、就職は難しいわよ」
「…わかってるよママ。ちゃんと考えてる」
私はパソコンの方向を向きながら今の状況とは全く反対の事を言う。
大学受験。それは人生に関わるいわば分岐点。
頭がトップクラスのところに行くと言っておいて、私は結局滑り止めの
高校に入った。だから今度こそは、アイビー・リーグくらい目指せと言われてしまった。
「アイビー・リーグ…一番近いのはペンシルベニアか…」
ペンシルベニア大学。難関中の難関だ。合格率は確か10パーセントを切るとか。そんなところに、90点を喜んでいるような私が入れるわけがない。
私なんか、頭が普通の高校のトップクラスでしかないのだから。
だが、私の母親は進学にうるさい。父親がエリートの天才数学者だから、その子供もエリートでなくてはダメだそう。
…わかっている。頭のいい大学に入らなければいけないのはわかっている。入れれば、就職が楽になることも知っているさ、知っているとも。
だが、私は勉強というものが嫌いだし、努力も好きじゃない。
「メイエル、ちょっとこっちへ来なさい」
「パパ…いつの間に帰って来てたの」
私はいかにもばつが悪いというような顔をしながら父親のもとに行く。
どうせ勉強のことで怒られるのだろう。勉強勉強、もううんざりだ。
「…何」
「これを見てみなさい、どうだ?パパの知り合いが勧めてくれてな」
父親は私に一枚の紙を渡す。私はそれを受け取って、文章を読む。
「こんなのって…」
「入れてみないか、脳内にAIを」
脳内にAIを入れることでついに完成する完全人間。
AIができることなら何だってできるし、もちろんどんな勉強だって楽勝だ。
まさか、厳格な父親がこんな裏技を勧めてくるなんて。
所詮親は子供を道具として利用しているだけなのだ。自分がエリートを育てたと、自慢したいだけなのだ。
それでも私は、手を伸ばした。
「入れる。入れて、私大学、ペンシルベニア大学受験する!」
「ただしAIは知識の面では活躍するが、考える面では未発達だ。国語なんかは、きちんと勉強しておけよ」
「大丈夫よ、私、国語だけは得意教科なの!」
私はこれから起こり得る未来の事柄に、胸をときめかせた。
AIを入れるなんてそんなことをしたら、何の努力もせずに済む!
私は即座に、AIを入れる手術をしてくれるように父親に頼んだ。
「ただ、最新技術だからまだ誰にも言ってはいけないぞ」
「はーい、パパ、わかってるよ」
私は久々に、ワクワクしていた。
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