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結論から言うと、ペンシルベニア大学に受かった。
アナスタシアもだった。
唯一自分の実力で受けた国語の読解問題も、他の勉強をしない分やっていたからそんなに足を引っ張らずに済んだみたいだった。
アナスタシアと私は一緒に喜びあって、合格発表の日には二人で遊びまわった。
アナスタシアは遊ぶこと自体が久しぶりだったようで、とても楽しそうだった。私は、遊ぶのがいつものことなのに。
そうして大学でも一緒に登校したりお昼ご飯を食べたりと、アナスタシアとの時間は一日の結構な割合を占めていた。
ただ、どこまでも純粋で努力家なアナスタシアと勉強の話をしているときだけは、心が痛んだ。
アナスタシアは努力しているのに、私は本当にこのままでいいのだろうか。
確かにペンシルベニア大学には通っていたいし、AIの脳も楽だった。
こんなに勉強をしない期間が続いたのはこれが初めてだというくらい。
「…アナスタシア、私が、AIの脳を使ってるって知ったらどう思う?」
気付けば、口に出していた。
嫌われてしまうだろう。
アナスタシアは努力家だから、そうやってずるいことをした私のことなんかどう思っても仕方がない。
アナスタシアは、しばらく黙っていた。
沈黙の時間が物凄く、痛かった。
「へぇ、メイエルが?そういうのって、大人がやるものだと思ってた。でもそっか、メイエルはお父さんが数学者だもんね」
「……え?」
アナスタシアは納得したようにうなずく。
私はアナスタシアが何に納得しているのか理解ができない。
「AIを脳に入れる技術は…最新技術だから誰にも言うなって、パパが言ってたのに…どういうこと?」
「ああ、そのAI作った団体が皆に言ってる誘い文句だよね。そう言えばリアリティが増すって思ってるんでしょ?脳にAIなんて、今どきの大人なら誰でもやってることだよ」
子供がやるケースは少ないんだけどね、と付け加えながらアナスタシアは何げない調子で言う。
寝耳に水だ。そんな情報知らなかった。
「私は、案内が来てもAIなんて入れないけど」
「ど…どうして?」
アナスタシアは目を閉じて、昔を思い出すように、優しく話す。
「だって、努力しなくなるじゃない。私だって楽な方がいいし、勉強なんて興味ある分野以外したくないけどさ、やっぱり、努力はしたいんだよね」
その声音は、キラキラとしていた。
「頑張って頑張って、ようやく取った点数って、どんな点数でも嬉しくない?ほら、楽に取った100点より、努力して取った80点の方が嬉しいってやつ」
アナスタシアのその言葉に私は、昔を思い出した。
苦手だった地理のテスト。
頑張って、勉強から逃げずに80点を取ったときの嬉しさは、筆舌に尽くしがたいものだった。
そのときの感覚を思い出す。…もう一回だけでも、あの喜びを再体験したい。
私は真理にたどり着いた気がした。
努力をしたいと、そう思えた。
「アナスタシア…ありがとう、私、大事な感覚を思い出せた!もうAIになんて頼らない。今度こそ、アナスタシアと同じステージに立つ」
「え?ああ…うん。いいんじゃない?どっちでも。たださ、もう一つ、AI入れない理由があるのよ」
アナスタシアは困ったような顔で私を見る。
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