ふたりの始まり。

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 母が頑張って自転車で漕いだおかげで、蘭子はやっとのことで家に着いた。時間にすれば十数分程度の事だが、蘭子にとってはもっと長い時間に感じる。 特に今日は帰ってからの楽しみがあるので、蘭子は家に着くのが待ち遠しかった。  母が玄関の鍵を開けて手を洗って落ち着いてから、蘭子は母から隠れるように玄関に行く。そこでいつもより膨らんでいる鞄の中から、ハンカチに包まれた丸いものを取り出す。  ハンカチの中から出てきたのは丸い土の塊、泥団子だった。ただの土の塊であるそれを、蘭子はぬいぐるみを撫でるかのような優しい手つきで撫でる。つるりと一周撫でると、蘭子から見えない裏側にザラリという感触を感じる。  蘭子が裏側を確認すると、そこにはツルツル部分が一部剥げた表面があった。それを見た瞬間、蘭子はとてつもない怒りを、絶望に近い感情を抱いた。  5歳にも満たない幼児が抱くには膨大すぎる負の感情は、蘭子の思考を停止させることとなった。  その時、母は蘭子がいなくなったことに気がついてらん子を探し始めた。その捜索も、リビングを開けて直ぐに終えてしまったのだが。 「蘭子、何してるの。って、なんで泣いてるの! その泥団子もどうしたの」
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