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「お前は何かしたい事ないわけ?」
急に真面目に尋ねられ、私はドキリとした。
したい事……と言うか、憧れはある。でもそれは叶わないだろうし、目指したいとも思っていない。
現実はシビアで、中3ともなればその現実に打ちのめされる事もある。
「ない……事はないですけど……」
言葉を濁してそう呟く様に答えると、お兄さんは興味深そうに私を見て口を開いた。
「何?」
「笑わないで下さいよ?モデルです!モデル!何年か前にお母さんが、この子可愛いねって見せてくれた雑誌があって。それで憧れて……」
一気にそう言うと、私は居た堪れない空気に視線を落とした。
「お母さんも……、顔はお父さんに似て可愛いからきっとなれる、なんて言うんですけど。現実はそうもいかないですよね」
顔も知らないお父さん。私がお腹にいる時に、それを知る事なく連絡が取れなくなった外国の人らしい。
私は一応ハーフで、だから少しだけ日本人離れした容姿ではある。少しグレーかがった目の色に、明るい茶色の髪。
でも、私が憧れてた雑誌で見たあの子は、私の何倍、いや何百倍も可愛かった。
私は徐に生徒手帳に挟んであった、何年も前のその雑誌の切り抜きを取り出す。
「この子、なんですけど。私にはモデルなんて天地がひっくり返っても無理だけど、憧れるくらいいいかなってお守り代わりに持ってるんです」
そう言って、私はお兄さんにその切り抜きを広げてみせた。
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