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眩暈さえするような純白が目の前に広がっていた。
雪ではない白、その柔らかな感触を足の裏に感じながら歩いて行く。広く突き抜けた真っ青な空から振り注ぐ陽射しによって背中に熱を感じる。
上は青、下は白。世界はその二色によって直線で切り分けられていた。視線を遮るものもない静かな世界。獣の唸り声にも似た、大気のざわめきだけが鼓膜を震わせる。
そんな何もない世界を僕は一人で歩き続けている。目的のない旅。いつからこうしているのかもわからない。ただ、一日に数回ほど現れる鳥を観測することだけを旅のなかで繰り返していた。キラキラと白銀色に鋭く煌めく大きな鳥。空気を切り裂くかのような甲高い声で鳴きながら、翼をまっすぐに左右に広げて飛ぶ。僕は決まっていつもその姿に見惚れてしまう。
鳥が現れたときには歩みを止め、僕はその姿を目に焼き付けるように観察を始める。鳥は遥か頭上を飛んで行くときもあれば、足元から突然姿を現すこともあった。群れで飛んでいるところを見たことがないため、おそらく彼らは群れを作らず一羽で行動するのだろう。しかし、毎日観察を繰り返しているにも関わらず、その鳥について僕が知っていることは殆どない。
最近は、名も知らぬあの鳥を追って旅をしているのかもしれない、と思うようにしている。誰もいない世界で、鳥の名を知るために僕は生きている。どこから来てどこへ向かうのか、自分のことよりもたった一羽の鳥のことが気になるなんて、不思議なことではあるが、気になるのだから仕方がない。
ほら、来た。特徴的な甲高い鳴き声が突然どこからともなく聞こえてくる。僕はあたりを見回す。耳が痛くなるほどの甲高い鳴き声が近づくにつれ、風を巻く大気のざわめきも大きくなる。
頭だ。丸い頭が足元から姿を現した。こんな近くから観察するのは初めてだ。思わず駆け出し、並走する形になる。少し手を伸ばせば触れそうなほど近い。
嘴のないつるりとした丸みを帯びた頭。羽ばたかせることもなく、真っ直ぐに左右に伸びる厚みのある重たげな白い翼。曲線を描く翼の先端には赤い小さな光が点滅している。そして最後に白い地面から姿を現した長さのある尾には、翼と同様に先端に点滅する赤い光が見えた。
羽の生えていない、硬く重たげな鳥の首から胴体にかけて、一筋の青いラインが走っている。そのライン上に透き通る丸い模様が等間隔に並んでいることに気が付いた。と同時に、僕は翼の根元の丸い模様の中に僕と同じ見た目の女の子と確かに目が合うのを感じて、立ち止まった。
金属でできた奇妙な白い大きな鳥は、大きな体を揺らし、甲高い鳴き声だけを残してはるか頭上の大空へと登って行った。
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